生細胞超解像イメージング研究チーム

研究内容

真核生物の細胞内は、緻密に分化した膜系(細胞小器官−オルガネラ)で満たされ、その多くがダイナミックな膜の流れ(膜交通−メンブレントラフィック)によって結ばれています。その膜交通を担う主役の1つが小さな膜小胞で、膜交通は小胞輸送とも呼ばれてきました。

膜交通は、細胞の成長、分裂、運動、分化、情報伝達などのさまざまな活動に必須であり、したがって生命活動の根幹にかかわる重要な機能です。そのメカニズムについて精力的な研究が進められ、ノーベル賞の受賞対象にもなってきました。しかし、何万種にも及ぶ多種多様なタンパク質がどのように細胞内で仕分けられ、正しい目的地に届けられるのかという根源的な問いには、まだ十分な答が得られていません。細胞内の膜系が激しく動きながら活動する中で、精密な分子選別と輸送が正確に行われるためには何が必要なのか、それを理解したいと私たちは考えています。

当研究室では、膜交通における選別輸送のメカニズムを徹底的に理解するため、生化学、遺伝学といった古典的な細胞生物学の手法に加え、生きた細胞の中を「見る」方法論を開発し、活用しています。

細胞内を見るためには顕微鏡が必要です。細胞生物学の歴史は顕微鏡の歴史でもあります。19世紀に普及した光学顕微鏡に、20世紀になって電子顕微鏡が加わり、細胞内のさまざまな微細構造が観察できるようになりました。しかし、細胞を固定する電子顕微鏡法では、残念ながら生きたままの状態を見ることができません。一方、生きたままの観察に向く光学顕微鏡法では、光の回折限界(分解能の限界)のため、小胞のような小さな構造は見分けられないという弱点がありました。

そんな中、下村脩先生によるクラゲの光るタンパク質、GFP(緑色蛍光タンパク質)の発見が研究の世界を変えました。GFPを利用すると、遺伝子組換え技術によって、細胞内のさまざまな分子装置等を自由自在に蛍光標識することができます。この蛍光シグナルを優れた顕微鏡で追跡すると、生きた細胞の中でタンパク質の動きを詳細に観察することが可能になります。ライブイメージング(生きたまま観察)の世界が始まったのです。

私たちは、GFPをはじめとするさまざまな蛍光タンパク質をツールにして、小胞輸送/膜交通を詳細に観察するためには、これまでにない新しい顕微鏡を作る必要があると考えました。細胞内を高速度で動き回る小胞を観察するには、小さな構造を観察できること(空間分解能が高いこと)と速い動きを追跡できること(時間分解能が高いこと)の両方が同時に必要になります。

国の支援(NEDO)と民間企業との協力によって作り上げた新しい顕微鏡システム(SCLIMと呼んでいます:詳しくは別ページで)は、初代から現在までの10数年に大きな進化を遂げ、いまや細胞内の一つ一つの小胞の挙動を高速で追跡することが可能になってきました。世界に無二のこの顕微鏡システムを駆使し、膜交通のメカニズムを徹底的に理解することを目指しています。

研究材料としては、これまで長年、優れた実験系である出芽酵母と美しいゴルジ体を持つ高等植物を主に用いてきましたが、最近は動物細胞(哺乳動物培養細胞および初代培養神経細胞)にまで対象を広げています。異なる生物種は異なる細胞内の体制をとっているように見えますが、それらを比較することによって明らかになってくる共通点と相違点から、生命現象の根幹につながる原理を一つでも多く解明したいと考えています。

Topへ戻る